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DeNA AI全振り、現場のリアル — 開発者が体感した1年

· Sangkyoon Nam

前回の記事では、南場智子会長がAI Day 2026で発表した成果を取り上げた。生産性20倍、法務90%削減、効率化パラドックス。数字は華々しかった。では現場はどうなのか。DeNAで働く開発者A君に直接聞いてみた。

#「人員を半分に減らします」 — 現場に落ちてきた一言

2024年6月、DeNA全社発表会で「人員を半分にすることを目指す」という話が出た。文脈なしに投げ込まれた一言に、社内チャットは即座にざわついた。「クビにするってことか」という反応が溢れた。

その後、説明が続いた。今の仕事を半分の人員でこなし、残りは新しいAI事業を探しに行こうという趣旨だった。目標期間はおよそ2年。一人ひとりがAIを活用して2人分以上の仕事をこなす必要があるという意味だった。

#DARS — AI活用レベルを測定する

DeNAは2025年8月からDARS(DeNA AI Readiness Score)という独自指標を全社に導入した。非開発者(ビジネス/クリエイティブ/マネージャー)と開発者を分けて、AI活用レベルを5段階で測定する。非開発者には「AI出力を手直しして活用できるか」を、開発者には「AIエージェントを設計・運用できるか」を基準とする。同じレベルでも求められる能力は異なる。

#個人レベル(開発者基準)

  • レベル1: AIと対話してコードを生成し、情報収集ができる
  • レベル2: AIをエディタに統合し、プロンプトを改善できる
  • レベル3: エージェントを活用して作業の一部を代替し、プロンプトチェーンを設計できる
  • レベル4: 独立型エージェントをチームメンバーとして運用し、AIアプリ/エージェントを設計できる
  • レベル5: AIプラットフォームとオーケストレーションエージェントを構築し、組織全体のAI開発をリードできる

個人レベルとは別に、組織レベルも測定される。「メンバーの50%以上が個人レベル2以上」のような定量基準があり、組織単位でAI活用度を追跡できる仕組みだ。

DARS 個人レベル & 組織レベル概要

A君によると、大半の社員はレベル2に留まっており、レベル4〜5に到達した人はまだいない。会社が求めているのは個人がレベル4まで上がることだが、そこまでにはまだ距離がある。

現時点でDARSは人事評価に直接連動していない。ただし「いずれ入る」というメッセージは強く伝わっているという。

#AIコストの現実 — 実験から定着へ

AI全振り宣言の直後、DeNA本社がAI利用コストを全額負担した。「好きなだけ使え」という方針のもと、全社的にVertex AI APIを利用していたが、トークン単位の課金だったため、一人あたり月100万円を超えるケースも出てきた。

しかし実験期が終わると、コスト構造も変わった。2026年4月からAIコストが本社から各サービス組織へ移管され、それに伴い個人あたりの利用可能額も縮小された。その代わりに、会社は無制限に使えるツールを購入して提供した。タスクを任せると自ら計画し、コーディングし、PRまで上げてくれる自律型コーディングエージェントDevinと、コードレビューツールCodeRabbitである。

さまざまな可能性を検証していた時期を過ぎ、ツールとコストの最適化を詰めていくフェーズに入ったということだ。

#Devinが変えた開発の風景

Devin導入後、目に見える変化があった。GitHub PR(Pull Request)にコメントが200件もつくようになったのだ。以前は開発者がローカルで作業していたため、プロセスが見えなかった。今はDevinとのやり取りがすべて記録として残る。

これは両面がある。作業プロセスが透明になったという利点がある一方、誰がどれだけ何をしたかが全員に見えるようになったということでもある。

開発プロセスそのものも変わった。以前はモックアップを作って、レビューを経てから開発に入っていた。今は「とりあえず作れ」が基本だ。AIで素早く作ってから修正するほうが、モックアップを詰めるより速いからだ。

#チームによって異なるスピード

南場会長は「プロジェクトによっては95%をAIが担当している」と述べた。現場の実感は違う。A君のチーム基準では40〜50%程度。95%は特殊事例で、多くのチームはこの範囲に近い。

チームの性質による違いもある。セキュリティ対応やインフラ移行のように定型化された共通タスクを扱うチームはAI活用率が高い一方、新機能を設計するチームは相対的に低い。こうしたチームは、AIに渡すための良質なコンテキストを作ることにまず時間を使っている。AI活用の第2段階、Context Engineeringを現場で肌で感じている状況だ。

チーム間のスピード差も広がっている。3ヶ月の計画を2週間で終わらせるチームもあれば、3ヶ月でもギリギリというチームもある。かつて均一だった開発サイクルが、チームごとに異なるペースへと再編されつつある。

#新卒採用凍結、2年目

AI全振り宣言以降、A君が所属するチームは2年間新卒を採用していない。「人員半分」というメッセージが出ている以上、攻めの採用はできない。必要なときは即戦力の中途を採るスタイルになった。

A君はこう言う。「これだけの規模の会社が新卒を採らなくなったら、日本の若手エンジニアはいったいどこに行けばいいのか。」AIが生産性を上げる分、ジュニアが育つ場所は狭くなっている。効率化の果実が誰に渡るのか、まだ答えは出ていない。

#現場が語る本当の変化

大きな変化には常につきものだが、経営陣が見ている数字と現場が感じている温度は違う。チームごとのばらつきは大きく、解決すべき課題もまだ多い。

それでも開発者の日常は確実に変わった。設計して、承認を得て、それから作る。その順番がひっくり返った。まずAIで作り、そこから直す。1年前と同じやり方で仕事をしている人はもういない。

AI全振りはまだ進行中だ。しかし引き返せないポイントはすでに過ぎた。

#参考資料

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